慶應義塾大学 湘南キャンパス 秋山美紀研究室 Miki Akiyama Lab

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2020年度 卒プロ

■2020年9月卒業生■

大学生・大学院生が新型コロナウイルス感染予防のための自粛を開始するまでのプロセス
環境情報学部4年 藤間 優子

【概要】
新型コロナウイルスが世界的な大流行をする中、日本では2020年7月22日に全国の1日当たりの感染者数が過去最多を更新し、全国的な感染の広がりが目立ち始めている。若者の感染割合も高まる中で、若者は感染しても症状がないか軽く、気付かないうちに他の人に移す可能性があることから、専門家は「若者も危機感を」と訴えている。これらのことから、10〜30代の若者の行動が今後の感染防止拡大の鍵となっていると考えられる。特に行動範囲が広く多数の人と関わる大学生の外出自粛を促進し、感染拡大を抑制することが急務であると考えられる。そこで、感染拡大を抑制する対策を考える際の一助とするため、大学生・大学院生が新型コロナウイルス感染予防のための自粛を開始するまでのプロセスを明らかにし、自粛という行動変容がどのようにして起きたのかを解明することを本研究の目的とした。本研究では大学生・大学院生5人に対して半構造化インタビューを行い、グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を行った。その結果、大学生・大学院生の行動自粛の中心にあったのは【他人に移してはいけない気持ち】という概念であり、【他人に移してはいけない気持ち】とそれに関連する《感染可能性の評価》《周囲の感染対策による行動制限》《自分は大丈夫だという認識》《今までの生活の継続》《自分の身近に起きた異変》《批判される恐怖》《自粛の検討》〈周囲の気遣い・行動自粛〉〈自粛をサポートするツール〉《自粛の開始》《今後の行動の検討》という12のカテゴリー・サブカテゴリーで構成されていた。本研究の結果として、プロセスを循環し自粛の検討へと進むにつれ、新型コロナウイルスの罹患性と重大性の認知、自粛の利益と自己効力感が高まることがわかった。そして、自粛の開始の障害は自粛の利益および自己効力感によって軽減される可能性が示唆された。批判される恐怖心を煽るのではなく、「大切な人を守ることができる」といった自粛の利益と、ツールによって自粛をうまく遂行できるという自己効力感を高めることで行動変容が促進されると考えられる。また、自粛という行動は新型コロナウイルスに関する正しい知識はもちろん、心理的・物質的サポートをしてくれる家族などの身近な存在および自分の身近で異変が起きた経験があることで促進される可能性が示された。
キーワード:1. 新型コロナウイルス / 2. 大学生 / 3. 大学院生 / 4. 感染予防 / 5. 自粛 / 6. 行動変容 / 7. 自己効力感 / 8. 健康信念モデル / 9. 計画的行動理論



■2021年3月卒業生■

若年期⼥性の⽉経セルフケアと関連要因の実態調査―⽉経・性教育を中⼼として―
環境情報学部4年 和⽥ 涼花

【概要】
本研究は、18 歳〜24 歳、未婚、妊娠・出産未経験者の若年期⼥性122 名を対象に、⽉経セルフケアとそれに関連すると考えられる⽉経随伴症状、学校や家庭での⽉経・性教育の実態について明らかにすることを⽬的で、無記名インターネット質問紙調査を実施した。調査内容は1. 基本属性、2. ⽉経基本属性、3. ⽣活習慣、4. ⽉経随伴症状、5. ⼥性の健康に関する知識、6. ⽉経セルフケア、7. これまでに学校で習った⽉経・性教育、8. ⺟親との会話、9.友⼈との会話とした。
結果から対象者の多くは性・⽉経教育を網羅的に学んでおり、内容別に⾒ると成熟期の⾝体の変化や妊娠の仕組みといった⽣物学的な内容の教育は受けているが、症状緩和⽅法などの実践的な内容の教育を受けた者の割合は少ないことが明らかになった。学校で習った⽉経・性教育のほぼ全ての項⽬で「国際セクシュアリティ教育ガイダンス(1)」で設定された学習推奨年齢より遅い年齢で教育が実施されていたことが明らかになった。今後の⽉経教育および学習指導要領では⽉経随伴症状のセルフケアや⽉経の異常などの専⾨的知識といった内容の追加および世界基準に合わせた性教育の早期化が必要だと考える。また、⺟親や友⼈と性や⽉経について会話をする者ほど⽉経セルフケアを実⾏しており、⺟親や友⼈との会話は⽉経セルフケアの知識取得や実⾏に役⽴っている可能性があることから、若年期⼥性の⽉経セルフケアの実施を⾼める⽅法として⺟親や友⼈を通した間接的なアプローチも今後は検討すべきと考えられる。
キーワード:1. ⽉経 / 2. 教育 / 3. セルフケア / 4. ⺟親 / 5. 友⼈ / 6. 若年期⼥性



認知症の⼈を介護する家族が介護施設⼊所を決⼼するまでのプロセス
総合政策学部4年 能 泰雅

【概要】
背景:⽇本における認知症⾼齢者の数は今後ますます増加していくことが予測されている。それに伴い、認知症の当事者のみならず介護家族にも⼗分な理解と⽀援が必要であることが認識されてきている。介護家族者を理解するためには、認知症介護の実態について明らかにする必要があるが、在宅介護を中断し施設⼊所を決⼼するまでに介護家族者がどういった迷いを抱えていたかのプロセスを明らかにした研究は少ない。
⽬的:認知症の⼈を介護する家族が施設の⼊所を決⼼するまでのプロセス、及び施設⼊所を決⼼した背景事情は何かついて、「認知症当事者と介護者の関係性の違い」「居住形態の違い」に着⽬しつつ明らかにする。
⽅法:認知症の⼈を施設に⼊れた経験のある4名の介護家族の⽅に対してインタビューを⾏い、グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を⾏った。
結果:分析の結果、介護家族が介護施設⼊所を決⼼するプロセスにおいて、中⼼にあったのは、【認知症当事者と⾃分を含めた家族の優先順位の決定】という概念であり、【認知症当事者と⾃分を含めた家族の優先順位の決定】とそれに関連する《認知症の周辺症状とその評価》《在宅での家族介護が継続可能かの検討》《認知症当事者が望む⽣活を続けるために⾃分がどれだけ貢献できるかの検討》《施設の検討》《施設⼊所を決⼼》《当⾯は施設に⼊れない》という7つのカテゴリーで構成されていた。
結論:認知症の⼈を介護する家族が施設⼊所を決⼼するプロセスについて、居住形態によって施設⼊所を決意するまでに辿るプロセスが異なるということが明らかになった。別居介護の場合、介護を通して感じるストレスが少なくそれにより認知症当事者へ貢献したいという気持ちが強まることがその違いを⽣み出していた。⼀⽅、関係性の違いによって施設⼊所を決⼼するプロセスに違いは⾒られなかったが、義⺟を介護する家族の⽅が実⺟介護者に⽐べて在宅介護を継続することへの⾃信や意欲がより早く喪失していることが⽰唆された。居住形態や関係性の違いによらず、介護家族は施設⼊所を決定するまでに【認知症当事者と⾃分を含めた家族の優先順位の決定】を⾏っていることが明らかとなった。この優先順位の決定という⾏為は、施設⼊所を決⼼する前段階において、最後に「⼼を整理」する⾏為だと考えられ、特に「介護が終わっても⾃分たちの⽣活はこの先続いてい く」という未来思考が、介護家族⾃⾝の⽣活を優先する意思、及び施設に預けることを辞さない思いを強め、施設⼊所を決⼼するに⾄っていた。
キーワード:1. 認知症 / 2. 施設⼊所 / 3. 別居 / 4. 介護 / 5. グラウンデッド・セオリー・アプローチ



障害者が主体となって運営・活動する作業所の意義-重度脳性麻痺者の語りから
総合政策学部4年 中井 ひかる

【概要】
本研究は, 「障害者が主体となって運営し活動する作業所」が果たしている役割や障害者(当事者)にとっての意義,脳性麻痺者が社会に対して捉えている課題を明らかにし, その上で個々人が尊重され,自立し, 社会参加のできる共生社会実現のための方策を検討することを目的とした。「障害者が主体となって運営し活動する作業所」である, 法人A管轄の作業所に通う脳性麻痺者を対象として, 半構造化インタビューを行った。テーマティック・アナリシス法に従って分析を行い, 次の結果を明らかにした。「障害者が主体となって運営し活動する作業所が果たしている役割や障害者(当事者)にとっての意義」は, 5つであり, A障害者の仲間から受ける刺激,B自己実現, C障害者の仲間から受ける安心感や気づき, D日常生活の必要支援を受けられることやその安心感, E障害者の課題解決に向けた取り組みによる社会参加,であった。また, 「脳性麻痺者が社会に対して捉えている課題」は, 4つであり, 1障害者と健常者が分けられていること, 2社会全体の社会問題に対する当事者意識の欠如, 3差別や偏見の解消4障害者自身の当事者性の獲得, であった。これらの結果から,共生社会実現のための方策を検討した。
キーワード:1. 主体性 / 2. 障害者 / 3. 脳性麻痺 / 4. 作業所 / 5. 当事者の声 / 6. 障害者運動



「痴漢」を生み出す日本社会の構造に関する考察
総合政策学部4年 須田 小百合

【概要】
2020年度(令和2年)「痴漢」を生み出す日本社会の構造に関する考察平成31年調査における性的事件被害内容別被害者数(法務省,犯罪白書,2019)によると、過去5年間、日本の性犯罪において「痴漢」被害が最も多い。その上、被害を受けた際に抵抗ができたのは被害者のわずか8%のみで、92%は泣き寝入りしている現状がある(埼玉県,痴漢犯罪の抑止について,2017)ことから、データ上の痴漢被害件数は実際よりも非常に少なく見積もられていることが推察される。このように、毎日のように多くの被害者を出す犯罪にも関わらず、痴漢防止に関する研究も少なく根本的な解決策が一向に実行されない現状は問題である。そこで本研究では、痴漢問題を解決に導く一助となるため、痴漢問題が解決されない要因を、社会構造の視点から捉え直す事を目的とした。その達成のために、痴漢に関する調査、論説、雑誌記事に至る様々な文献を収集・分類し、考察しながら総説として取り纏めた。その結果、本来痴漢問題を規制する役割として存在する鉄道・警察・司法の施策は核心を突いたアプローチではなく、エビデンスに基づかない防犯指導や調査を行っている実態が指摘できた。また、人々の認知の枠組みを作る日本の教育・メディアは、犯罪である痴漢を娯楽化し、被害者の自己責任を煽ることで、痴漢に対する誤った認識を構築してきたことが推察された。本研究は、痴漢問題を解決していくためには日本社会の構造の根本に潜在する「ジェンダーバイアス」を更改していくことが重要であるという結論に至った。日常的な性犯罪をなくし安心して公共交通機関を利用できる国となるために、直接的アクターらが被害者の泣き寝入りを救う環境作りを徹底し、社会全体が被害者・加害者、そして痴漢が発生する構造を正しく認識していくと共に、社会的・文化的性差別や偏見を無くしていくための性教育、メディアや行政の啓発の改善が急務である。
キーワード:1. 痴漢 / 2. ジェンダー / 3. 性犯罪



児童虐待防⽌とその⽀援について―地域の⽀援者とその視点から―
総合政策学部4年 森⽥ 浩平

【概要】
厚⽣労働省によれば、⼦どもが親などから虐待を受けたとして児童相談所が対応する件数は年々増加の⼀途をたどり、昨年1 ⽉からの半年間では9 万8 千件余りと過去最多のペースである。緊急事態宣⾔が発令された4〜5 ⽉は、⼀昨年同期⽐で2%減っているが、「虐待の潜在化」という事態も危惧されている。学校の休校や外出⾃粛に伴い、周囲の⼈が⼦供の異変に気づく機会が少なくなり、感染の恐れを理由に、児童相談所の職員が家庭訪問を断られるケースもあるなど、コロナ禍は児童虐待の実態把握と対策を困難にしている。そのような中、本研究では、児童虐待に⾝近に関わる機会の多い、児童相談所、市役所の⼦ども育成相談課、保育園へのインタビューを通して、体罰なきしつけとはなにか、またそれを実現するためにはどのようなサポートが必要であるかを明らかにすることを⽬的とした。先⾏研究レビューおよびインタビュー調査の結果、いかに不適切な養育、マルトリートメントの段階で児童虐待の芽を発⾒をするか、地域、社会全体で⼦育てを⽀援、虐待を予防していくことの⼤切さが再確認された。
キーワード:1. 児童虐待 / 2. 世代間連鎖 / 3. 児童相談所 / 4. 関係機関



高齢ドライバーからみた自動車の役割と彼らが望む意思決定~自動車運転の必要性を考え、運転継続の有無を意思決定できる社会づくり~
総合政策学部4年 笠井 優花

【概要】
近年、高齢ドライバーによる歩行者を巻き込んだ交通事故が注目される。様々なメディアでの報道頻度が高まるに伴い、周囲が高齢者に免許返納を強いる傾向が強まった。事実、警察庁資料によると75歳以上のドライバーによる人口10万人当たりの死亡事故件数は75歳以下に比べ2.4倍である。また加齢による判断力の低下にはどうしても抗えない。しかし自動車運転を止めるよう強要する行為は高齢者からみた自動車の役割を無視し、自己決定の機会を奪うことになりかねない。先行研究によると、高齢者の免許返納を促進する要因は、本人が加齢や衰えを感じるこで、返納してよかったと感じる要因にもなっている。さらに交通機関の発達した利便性の高い都市部居住者ほど車への依存度が低く、免許返納を選択しやすいと結論付けている。だが、交通の便が発達している都市部に住んでいるにも関わらず自動車運転を続ける高齢ドライバーは未だ数多く存在する。このことから、高齢者にとって自動車には単なる移動手段を超えた役割が存在し、その役割が自動車運転をし続ける理由につながるのではないかと考えた。本研究は高齢ドライバーからみた自動車の役割を明らかにし、高齢ドライバーが自ら自動車運転の必要性を考え、運転継続の有無を意思決定できる社会づくりを検討することを目的とした。25名の75歳以上の男性ドライバーに選択式・自由記述形式のアンケート調査を行った結果から、高齢ドライバーにとって自動車の役割は定年を迎え仕事への比重が減り、趣味やレジャーなど生活を豊かにするために重要な役割があることが示唆された。さらに、彼らは⻑期に渡り自動車特有の利便性を享受しており、生活必需行為を支援する既存の買い物サポートや、自動車に比べ即時性に欠ける公共交通機関の割引では免許返納を促進しないことが推察できた。くわえて彼らは今までヒヤリハット体験を複数回してきたが大きな事故につながらず、自力で事故を回避できた経験も伴うため事故リスクへの意識が低いこともわかった。高齢ドライバーが運転をやめようと判断する基準は主に主観的に心身の健康状態の不良を認めたとき、または検査や周囲の評価など客観的に自動車運転の危険性が明示されたときであることがわかった。周囲は高齢ドライバーに対し、彼らの意思を尊重している姿勢を示し「今すぐ運転をやめさせる必要性」について改めて考えることが肝心だ。その上で、運転を止める目処を宣言する場を設ける、安全運転のための健康サポートやルールの設定、シニアカーやサポカーなど新しい提案をするなど彼らに判断を委ねることの重要性が示唆された。
キーワード:1. 高齢ドライバー / 2. 免許返納 / 3. 高齢者との関わり方 / 4. 質的研究