慶應義塾大学 湘南キャンパス 秋山美紀研究室 Miki Akiyama Lab

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2012年度 卒プロ

2012年度、秋山研(ヘルスコミュニケーション)は、春学期に1名、秋学期に8名の計9名が、個性が光る卒業研究を仕上げて旅立ちました。市川絢子さんの論文が研究会優秀論文になりました。9名の卒プロの概要をご紹介します。

■2012年度秋学期■

篭島 菖子
入院経験のある高齢者の感情変化と困難感・不安感に対するコーピング

【概要】
 我が国は、世界最速で高齢化が進んでおり、高齢患者数の増加に伴い、病床数や介護資源の不足といった問題が浮上している。政府は高齢者の社会的入院を減らすために、医療法の改正や診療報酬の改訂を行い、治療後の早期退院に努めている。また、2006年の介護保険法改正により介護予防事業をスタートし、高齢者の心身機能の維持・改善のために各種プログラムを市町村毎に実施している。高齢者の多くは身体機能の衰えや周囲との関係の希薄化等によって日常生活に不安を抱いているという現状があり、それらがうつ・閉じこもりにつながり、やがて寝たきりになってしまうという現状がある。   筆者は、以上のような社会背景に問題意識を抱き、高齢者のうつ・閉じこもり・寝たきりを防ぐためには、精神的不安を取り除くことが必要であると考えた。そこで、「入院経験のある高齢者はどのような感情を抱くのか」また、「その中で困難感・不安感に対しては、どのようにコーピングをしているのか」という研究目的を設定し、本研究を行った。  2つのリサーチクエスチョンを明らかにするために、高齢者が抱く不安と、高齢者が疾病・怪我から回復するプロセス、高齢者のストレスコーピングについての先行研究調査を行った。また、入院経験のある高齢者を対象とした、インタビュー調査を行った。  インタビュー調査から、高齢者が抱く感情は、入院中は動揺・落ち込み・精神的不安が中心であることに対し、退院後は再発に対する身体的不安・日常生活の中での困難感が中心にみられ、フェーズ毎に異なるという結果が得られた。また、高齢者にとって「医療者・介護者への信頼感・満足感」、「家族の存在・支援」は重要なコーピング手段であるということだった。さらに、先行研究とは異なる、役割意識や趣味、日常の楽しみ、生活の中での工夫、といったカテゴリーがコーピングに有効であることも示唆された。

【キーワード】
1. 高齢者 / 2. 感情 / 3. コーピング / 4. 家族 / 5. 医療従事者

市川 絢子
中学校のダンス授業を支援するための教材開発 ~体育教員のスキルアップを目指して~

【概要】
 本研究では、平成24年に保健体育授業で必修化された「ダンス」授業において、教員の抱える不安や問題を解消し、楽しいダンス授業の実現を支援する方法を提案することを目的としている。先行文献を調査することにより、ダンス必修化に伴い中学校の体育授業の現場が困惑していること、特にダンスに対して知識がない男性教員や男子生徒に向けた授業への不安を抱えている現状があるとわかった。さらに、教員へのアンケート調査により、教材の内容の問題ではなく教材の形態に問題があることが浮かび上がった。これまでにもテキストや講習会などの教材はあったものの、それらが現場の教師の求めている形ではないことが示されたことから、筆者の経験を活かした教材の作成を行うことにした。保健体育授業における目的を満たした上で、教員の抱える不安を軽減するようないつでも見返せる手軽なテキスト教材および動画教材の開発をした。それらを、実際に中学校で体育を指導している3名の教員に使用し評価してもらった。その結果、スマートフォンを利用していつでも見られる教材の需要があることがわかった。

【キーワード】
1. ダンス必修化 / 2. ダンス / 3. 教材開発 / 4. 教員 / 5. 保健体育

国松 佑紀
小児リハビリテーションにおけるライフステージに沿った支援 :身体障害を持って生きる子どもたちのフォローアップ体制に関する研究

【概要】
身体障害を持つ子どものリハビリテーションは病院内の機能訓練のみで終わるものではなく、家庭や学校、ゆくゆくは仕事先での生活に関わり、そのリハビリテーションの質で社会での暮らしやすさが変わってくる。子どもは成長とともに生活の場が移り変わっていくが、医師や療法士、教師や保健師など障害児に関わる周りの大人は自らの関わる時期や専門分野の枠内にとどまるのではなく、成長していく子どもにとって何が一番必要か、という長期的視点でリハビリテーションを考えていく必要がある。これを踏まえ、本研究では文献調査と、障害をもつ当事者とその家族、そして医療者のそれぞれの立場へのインタビュー調査から、現在の小児リハビリテーションの現状と課題を整理した。 子どもの心身の成長と発達に合わせ、それぞれが相互に協力・連携し、長い息で子どもをフォローアップできる支援体制は、現時点では残念ながらまだ実現していない。その原因として、閉鎖的環境、専門職種間での役割分担が挙げられる。結果として、小児リハビリテーションの本質を理解せずに障害児のリハビリテーションに関わっている人があまりにも多いことが今回の研究から導き出された。当事者にとって、望むものはただひとつ、生活機能の向上、つまりQOLの向上であるが、医療者が行う訓練や、周りが良かれと思って行うことは必ずしも当事者の真のニーズとは合致していない。 子どもの障害の程度は千差万別であり、1人の大人が抱えきれることでも、1つのやり方で出来るものでも、ましてや小児と成人を区別して考えられるものでもない。自らの専門分野のみにとらわれるのではなく、多職種間で協力しあいながら子どもの未来を作る、というマインドを持って小児リハビリテーションに携わる人を増やすことが今後の課題である。障害児のライフステージに沿ったフォローアップ体制を実現できるよう、正しい知識の啓発活動やスキルアップ対策は急務である。

【キーワード】
1. 小児リハビリテーション / 2. 身体障害児 / 3. ライフステージ / 4. 支援体制 / 5. 連携

一宮 恵
持続可能な運営に向けた医療通訳運営モデルに関する研究 ~遠隔医療通訳の併用と組織連携・コスト分配に注目して~

【概要】
持続可能な医療通訳運営モデルの提案に向け、 事例を通じて遠隔医療通訳導入の効果と課題・改善策を明らかにする。また、組織の連携形態とコスト分配に着目し、運営形態の評価を行う。国内の3事例を対象とする。

【キーワード】
1. 外国人医療 / 2. 医療通訳 / 3. 遠隔医療通訳

甲斐 公博
競技復帰のプロセスで生じるコミュニケーション・エラーの回避  ~サッカーにおける選手―医師間の事例から~

【概要】
 スポーツ選手にとって怪我を負うことは非常に負の影響が大きい。怪我によって競技引退に追い込まれる場合や、競技レベルの低下につながる場合があることから、誰もが早く確実な疾患の治癒と復帰を望む。治療に際して、医師との間にコミュニケーション・エラーが起こることで、結果として疾患の再発や長期化といった困難な状況に陥る可能性がある。  本研究では、スポーツ選手が受傷してから競技復帰をするためには、医師とどのような関係を構築することが必要であり、どのような点に気をつけるべきなのかをインタビュー調査を基に検討を行った。  スポーツ選手にとって医師の存在は大きい。医師側は治療の選択肢や再発リスク等を選手が理解できるように伝えるとともに、選手側は復帰に関しての希望や考えを伝えるという双方向のコミュニケーションが重要性である。  本研究では、困難な疾患やけがから復帰を果たした大学の体育会に所属しているサッカー選手、またその担当医を対象にして聞き取りを行った。 インタビューの結果からは、方針決定に向けた選手と医師の関係性、再発に対するリスクの認識、第三者としてのトレーナーの役割という3つの要素が重要であることが明らかとなった。 今後、怪我を負ってしまったスポーツ選手がどのような医師とどのようにコミュニケーションを取っていけば良いのかが分かることで、受傷に際しての損失を最小限に食い止められることを願う。

【キーワード】
1. スポーツ医療 / 2. コミュニケーション・エラー / 3. 患者―医師の関係 / 4. リスク認知

小野寺 勇人
参加者全員が満足できる新しい卓球大会モデルの提案 ~スイス式トーナメントの卓球大会への導入~

【概要】
本研究では、参加者全員が平等に経験を積めない現在の卓球大会の問題点に注目し、参加者全員が満足できる卓球大会の新しいモデルを提案する。そこでチェス等で主に使われている「スイス式トーナメント」の大会方式を卓球大会に導入しようと考えた。  スイス式トーナメントは、全員が同じ試合数をこなすことができ、また、同じレベル同士で試合ができるように組み立てる試合形式である。この試合形式であれば、参加者の満足度を向上させることができると考え、実際に卓球大会を開くことにより、その効果を実証した。なお、スイス式トーナメントには大会運営の難しさという問題があるため、「T-BAG」という試合結果をまとめる大会運営アプリケーションを開発し、運営側の負担も減らした。

【キーワード】
1. スイス式トーナメント / 2. 卓球 / 3. 大会運営 / 4. アプリケーション

柳生 奏一郎
MMORPGにおける親密な関係の形成 -オフラインへの発展性-

【概要】
我が国のインターネット利用目的をみると、インターネットを通してコミュニケーションをとり親密な関係、「つながり」を形成することを求めている傾向にあることがわかる。本研究ではインターネットを通して親密な関係を築ける多数の場の中からMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-playing Game)という種類のオンラインゲームを題材とし、MMORPG内で形成される「つながり」の強さ、ならびに「つながり」が形成されるまでのプロセスを調べ、オフラインに発展する可能性があるのか検討することを目的にアンケート調査を行った。結果として、オフラインに発展する「つながり」を形成する可能性はあると判断した。形成するにあたり、相手の属性(年齢、性別、職業)とオンラインゲーム経験歴により異なる「つながり」のステップを踏む必要性があることも明らかにすることができた。

【キーワード】
1. オンラインゲーム / 2. MMORPG / 3. オンラインコミュニティ

荻野 愛
SFC生の食生活に対する意識改善について

【概要】
近年、食の欧米化や弧食、食の廃棄問題など食に関する問題がたくさん挙げられている。その中で将来親となる世代が近い私達大学生の食に対する意識を改善することで、自らの食生活を改善するだけでなく子世代により良い影響を与え、食に対する意識形成に役立つのではないかと考えた。 私は特にSFC生に注目してこの問題に取組んだ。

【キーワード】
1. 食育 / 2. SFC生 / 3. 意識改善

■2012年度春学期■

松本 優里
アカペラを使った中高生向けの教育プログラムの副次的効果~慶應義塾湘南藤沢中等部・高等部の「ゆとり」の授業において~

【概要】
 ゆとり教育による学力低下、長期欠席者(不登校)の増加など、多くの問題を抱える中学校・高等学校の教育現場において、教員という立場ではなく、年齢や価値観の近い大学生が教えられること、与えられるものとは一体何なのであろうか。  本研究で、大学生が主導となって制作・運用し、通算16年継続しているアカペラ教育プログラムを取り上げ、①【長年継続的に運営し続けるためにこれまでどのような工夫がなされてきたのか】、②【それを受講する中高生にどのような効果があるのか】の2点を明らかにすることで、同様の大学生主導の教育プログラムが今後発展・継続できるように、そしてこのような活動が全国的に広がり、盛んになっていくことで、教育現場における新たな可能性を広げることに少しでも貢献することを目的としている。  本プログラムの発足当時~現在に至るまで携わってきたOB・OGの先輩へのヒアリング、自身の活動記録、中高生へのアンケート調査、担当教員へのインタビュー調査、それぞれの結果を踏まえて、考察を行った。  これまで本プログラムを長期継続的に運営することができていた理由として、本プログラムを受講していた生徒が卒業後、大学生の講師側として参加するという【卒業生によるプラスのサイクル】があることがわかった。また、大学生と学校側・教員が密に連絡を取り合い、【相互的なコミュニケーション】を取ることで双方のニーズに合ったプログラムを制作し、中高生・学校側・大学生の3者のニーズがしっかりとマッチングしたwin-winの関係を築いていくことが必要不可欠であると考える。    また、本プログラムを受講する中高生にとっての効果は、【①アカペラによる効果】【②人前で発表するという体験による効果】【③異学年との交流による効果】【④大学生との交流による効果】の4つの要因によるものであるということがわかった。 今後は、ゆとり教育廃止の流れから授業時間の削減が行われている中で、本プログラムをどのように継続し、中高生にとって価値ある時間を提供し続けていくことができるかを考えて行く必要がある。また、本事例のように、大学生が主導となって中高生の教育現場に関わっていく活動が全国的に広がり、盛んになっていくことで、教育現場の新たな可能性を広げるきっかけとなることを願う。

【キーワード】
1. 音楽(アカペラ) / 2. 教育プログラム / 3. 中高生 / 4. 大学生