2010年度 8名の秋山研4年生が、それぞれが個性豊かで質の高い卒業論文をまとめ上げました。2010年度は川本彩多利さんの論文がSFC優秀卒業論文賞に選ばれました。
8論文の概要をご紹介します。
高校生に向けた子宮頸がん予防啓発プロモーション研究
慶應義塾大学 環境情報学部4年 川本 彩多利
Abstract
本研究は、女子高校生と母親を対象に、子宮頸がんに関する意識、予防行動と女性特有の病気についての家庭内会話環境の有無を調査することで、その関連を明らかにし、女子高校生に向けた子宮頸がん予防啓発のプロモーション戦略を策定することを目的としている。アンケート調査により、女子高校生は検診行動意図と会話環境の有無に関連があり、母親は子どものワクチン接種予定の有無と会話環境の有無に関連があることが明らかになった。このことから、今後の女子高校生に向けた子宮頸がん予防啓発プロモーション戦略として、予防法についての知識の定着と行動意図の醸成を図るため、家庭内で女性特有の病気について話す環境を作ることを提案した。
キーワード:子宮頸がん,ワクチン,がん検診,予防啓発,コミュニケーション
自治体の介護予防事業実施にあたっての課題 ―各事例からみえる課題と解決方法の提案―
慶應義塾大学総合政策学部4年 平井玄太
Abstract
介護保険法の改正により、将来訪れる超高齢化社会に向けて介護予防事業が行われるようになった。しかし、その認知度の低さや、スクリーニングによる把握率の低さなど、本来必要としている人たちにサービスが行き届いていないという問題を抱えている。本研究は介護予防事業の現状を把握することと、自治体が事業実施に当たって抱えている課題について考察し、解決策について提案を行うことを目的とした。
認知度や参加率の現状を知るため、自治体が行っている広報や教室への参加率などに着目し、事例を通して考察した。実際に埼玉県さいたま市大宮区、神奈川県藤沢市、高知県奈半利町、高知県高知市の各教室に参加しての体験・ヒアリング調査や、自治体への質問調査を行った。その結果、自治体による広報は不十分で、現在でも認知度や参加率は低く、特に男性の参加率は依然として低いことが明らかになった。また、実際に学生が参加することによって得られる意見も明らかにすることができた。
本研究では、自治体による広報とサービスが行き届いていない人へのアプローチを明らかにし、実際に教室を体験しながら参加者の声を聞くことによって、新たなニーズや解決策を示すことができたと考える。
うつ病患者への社会的支援の在り方
慶應義塾大学総合政策学部4年 内山雄貴
Abstract
今日のうつ病患者に対する支援は政府が中心となって積極的に行われているが、有効的な対応策が見つかっていないのが現状である。そのような中、近年住民同士による互助活動であるうつ病自助グループの活動が全国で始まっている。しかし、これまでその活動ついては未だ事例報告に留まり、うつ病自助グループ参加者にとってグループがどの様な役割を果たしているかについては明らかになっていなかった。
そこで本研究では、うつ病自助グループ参加者に対して詳細インタビューを行い、「共感を得られる場が当事者固有の問題を緩和する」、「参加者の3つの段階」、「定例会参加後の行動変容」の3つの特徴を明らかにした。うつ病患者に対する支援を考えていく際に、社会的資源の一つとしてうつ病自助グループの可能性を本研究では示せたと考える。
Keywords: うつ病、セルフヘルプグループ、自助
レセプトオンライン化の普及状況に差異を与える要因
慶應義塾大学総合政策学部4年 岸野佑亮
Abstract
2006年に全ての医療機関はレセプトをオンラインで請求することを命じられた。3-5年程度の準備期間に、CD-ROM等の電子媒体で送る医療機関は増えたが、オンライン請求までは行わない診療所や、医師会の強い反対もあり、省令は09年の改正で緩和された。一方韓国ではITによる医療の効率化と透明性の確保が積極的に行われている。そこで、日本と韓国におけるレセプトオンライン化に関する近年の研究論文を収集し、オンライン請求の普及要因と、より適切な医療分野へのIT導入方法を検討するために、文献のレビューを行なった。これにより、韓国は多大なインセンティブによって普及を促したことと、それが出来た背景には、レセプト審査機関の主導力や、経済危機などの社会的背景、技術の標準
化などがあると分かった。本研究により、医療分野へのIT導入時に重要ないくつかの変数を提示できた可能性があると考える。
Keywords: 1. 医療 2. IT
「ブログ内容にみる中学生不登校児と一般中学生の興味の差異」
慶應義塾大学環境情報学部4年 堀井 あかり
Abstract
本研究は、インターネット上にある「不登校状態にある中学生児童」のブログ記事と、「不登校状態にない中学生児童」のブログ記事を比較・分析することで、不登校状態の中学生が何に興味をもって生活しているのかを明らかにした。不登校中学生と一般中学生それぞれ40ブログずつ(計80ブログ)の最新20記事を調査対象とし、アイコン画像と記事内容を分析した。特に、不登校児のブログに多かった記載は「家族の悩み」(16件)で、一般中学生(4件)より有意に多かった。また、不登校児は「ダイエット」「ボーイズラブ」「音楽(ボーカロイド)」「音楽(ヴィジュアル系バンド)」への興味が強く、一般中学生は不登校児と比べ「部活」「スポーツ」「有名人芸能人」の話題を多く記載していることがわかった。また、アイコンには、不登校児がイラストを用いていることが多いのに対して、一般中学生は写真(特に、自身が写っているもの)を用いていることが多かった。
これまで把握しづらかった不登校児の興味や関心を明らかにした本研究をふまえて、教育従事者や不登校支援の団体が、今後この問題に対して適切な対策をたてることが望まれる。
就職活動におけるTwitter利用の主観的な効果
慶応義塾大学総合政策学部 横山 加奈
Abstract
不況のあおりを受け、近年の就職活動は氷河期の再来と言われるほど厳しいものとなった。就職活動においてどういった要素が重要であるのか、またどういったツールを用いれば有意義な活動を行えるのかということを探るが本研究の目的である。2011年4月の就職を目指し就職活動を行っており、かつ就職活動を行っていた期間にTwitterを利用していた学生にインタビュー調査を行ったところ、就職活動においては「情報収集」や「他者とのつながり」が重要であることがわかった。Twitterのリアルタイム性や属人性といった特性用いれば、その情報をより早く手に入れることが可能となる。また、学生同士の横つながりが得られることも重要な要素といえるだろう。孤立した状態で就職活動を行うのではなく、自分と同じような状況の人がいるということを感じることができたり、頑張っている人の姿を見ることで自分も頑張らなければと奮起することのきっかけになったりしていたようだ。これから就職活動を行う学生には、このツールを自分に合わせて用いることでより適切な就職活動を行えることを期待する。
市民ボランティア団体の活動の継続性に関する考察
―藤沢市における先駆団体代表者へのヒアリング調査より―
慶應義塾大学総合政策学部4年 前原 菜摘
Abstract
長期的な継続が困難と言われている個人ボランティア活動の継続が、今後市民活動の拡大に必要であるという問題意識から、ボランティア団体の代表者を対象に「継続性」に関する意識を調査し、継続の要因を明らかにすること本論の目的とする。神奈川県藤沢市市民活動推進センターに登録のある団体のうち、5年以上の活動の継続により成果を挙げている8団体にヒアリング調査を行った。調査から、個人ボランティアの継続要因として「精神的な満足感」「仲間の存在」「団体の活動方針」があること、団体の継続要因として「身の丈にあった活動の実施」「外部との協力」「代表のリーダーシップ」「人間関係の重視」が明らかになった。そこから、継続要因は各団体によって多様であり、団体のリーダーは自分たちにあった継続の形を見つけることが必要である。同時に、行政が今後市民団体と協力関係を築いていく際、市民団体がどのような活動のスタイルをとっているか見極めることが重要であることが明らかになった。
キーワード:ボランティア、市民活動団体、継続性、協働事業
若年層の投票率向上と政治関心向上のための情報提供
慶應義塾大学総合政策学部4年 嶋香織
Abstract
我が国では選挙における若年層の低投票率が懸念されている。そこで、本研究では若年層の投票率と政治的関心を向上させることを目的とし、それを達成するための若年層に向けた効果的な情報提供について考察した。情報と投票行動の関係に関する文献調査を行った上で、選挙時のメディア接触と投票の関係を明らかにするためのアンケート調査を行った。アンケート調査は低投票率層の代表として学生を対象に実施し、東京都選挙管理委員会が平成21年度に行った世論調査と比較した。その結果、学生は選挙に対する関心があっても選挙制度の認知不足を要因として棄権すること、情報収集手段としてインターネットを多く利用していること等、先行研究と異なる学生特有の傾向が明らかになった。学生は関心度に応じて異なるメディアに反応しており、投票率向上のために自治体や候補者が行うキャンペーンの一部に改善の必要性があることが示唆された。
キーワード:政治的関心/投票行動/選挙時のメディア接触/選挙啓発