2011年度、秋山研(ヘルスコミュニケーション)では、4年生11名が、優秀な成果を収めました。中には大学院の修士論文や専門学会の査読論文に比肩しうる優れた論文も複数ありました。
2011年度(2012年3月)卒業生では、本郷愛実さん、林英里さん、小島一輝さんが、SFC優秀卒業論文に選ばれました。11名の論文をご紹介します。
林 英里
アトピービジネスの被害を減らすために -小児アトピー性皮膚炎の診療現場およびステロイド外用剤の認識に関する考察-
【概要】
アトピービジネスは、アトピー性皮膚炎患者を対象とし、医療保険診療外の行為によって治療に関与し、営利を追求する経済活動である。根拠のない治療法に、高額の支払い。患者の弱みに付け込んだ悪徳なビジネスの被害を少しでも減らすために、今何ができるだろうか。 アトピービジネス発展の背景には、患者の、ステロイドを用いた治療への抵抗感、そして医師との信頼関係欠如が関連していることがわかった。本研究では、小児のアトピー性皮膚炎に焦点をあて、定性調査および定量調査を実施・分析し、患児の母親のステロイドへの抵抗感を払拭するためのアプローチ および、 医師と患者・患児の母親の信頼関係構築のポイントを導いた。 母親のステロイドへの抵抗感は、メディア情報および医師や周囲の人の発言によって形成されていた。ステロイドを使用する当事者に限らず、周囲の人も正しい知識を身に付ける必要性が感じられた。母親はステロイドを長期的に使用することおよび強いランクのステロイドを使うことに最も抵抗を感じていた。また、これに加え、母親はステロイドの副作用を「リバウンド現象」や「色素沈着」などのキーワードで認識していることがわかった。医師はこれらのキーワードに対する誤解を解き、ステロイドを処方する際には「いつまで使用するか」という点と「なぜこのランクなのか」という点を明確に説明するべきと考える。 また、母親は医師に対して「生活面のアドバイス」、「治療に関する具体的な説明・指導」、「対症療法以外の治療法」「母親の気持ちの理解」と大きく4つのニーズをもっていた。医師がこれらのニーズに応える方法としては、母親の質問に丁寧に対応し、ステロイドの使用法・使用量を具体的に説明する、基本的な投薬以外の知識を身に付け、患者に幅広い治療の選択肢を与える、母親の苦労・努力に対する理解を示し、そのうえで治療をサポートする姿勢を見せる、などの対応が考えられる。 今後はこれらの実践に向けて、医師側の負担を軽減するための環境整備および医師以外のプレーヤーへの協力の呼びかけが必要であると考える。
【キーワード】
1. アトピー性皮膚炎 / 2. ステロイド外用剤 / 3. アトピービジネス / 4. 医師 / 5. 患児の母親
小島 一輝
働く世代の生活習慣改善を目的とするスモールチェンジを用いたアプローチ研究
【概要】
我が国では生活習慣病が大きな問題となっているが、長年かけて形成された生活習慣を改善することは難しく、行動変容につながらないのが現状である。本研究は食生活と運動習慣を中心に、働く世代の生活習慣改善を促すスモールチェンジを用いたアプローチを明らかにすることを目的とする。本論文は大きく三つの要素で構成され、働く世代を対象にしたアンケート調査でスモールチェンジの意向と運動習慣定着の要点を検討し、生活習慣改善啓発のためのリーフレットの作成・配布を行い、記録を付けるというスモールチェンジの生活習慣改善への効果を測定した。以上の結果から、生活習慣改善に必要な要素は以下の5項目であると結論づける。【飽きない・周囲の人を巻き込む・主体性の喚起・記録・具体的な目標】
【キーワード】
1. スモールチェンジ / 2. 生活習慣 / 3. 特定保健指導 / 4. 行動変容 / 5. 働く世代
本郷 愛実
授乳に関する情報政策のための基礎研究
【概要】
授乳に関する情報政策の第一歩は、人々をとりまく状況や人々の認識への理解を深めることである。本論文では、第一章にメディアの一つとして育児雑誌における母乳代用品広告の実際、第二章に大学生の授乳に関する経験、認識、将来の展望に注目した研究をまとめた。日本における授乳に関する情報政策を考えていく上で基礎的なデータを提示することを目的とする。論文の構成は次のとおりである。「はじめに」で本論文全体の背景と目的を説明した後、第1章では「育児雑誌における母乳代用品広告の量的・質的調査」の研究結果を、第2章では「授乳に関する大学生の経験, 認識, 将来の展望」(アンケート調査) の研究結果をまとめ、「おわりに」にて政策提言を付則した。また、在学中に作成に関わったリーフレット及び法案を付録資料として論文の最後に載せた。
【キーワード】
1. 授乳 / 2. 母乳 / 3. 国際規準 / 4. 育児雑誌 / 5. 大学生
坂根 加奈子
坂根 加奈子
在宅緩和ケアにおける困難について
在宅緩和ケアにおける困難について
【概要】
本研究は、在宅緩和ケアに取り組む看護師がどのようなことに困難を感じているかを明らかにすることを目的としている。看護師(3施設7名)へのインタビュー調査より、看護師は様々な困難を感じており、そのなかでも「判断」、「家族の考え方の相違」、「ステーション・診療所の外部との連携」に関する困難が共通して見られた。また「看護師不足」に対する意識の違いは所在する地域の訪問看護師数が、「医師との連携」における困難の違いは連携体制の違いが関係していることが示唆された。困難の解決には多数の対策が考えられうるが、本論文では3事例(薬剤師・看護師教育プログラム、緩和ケアコーディネーター養成講座、総合型医療連携システム)を紹介し、課題解決への提案とする。
【キーワード】
1. 在宅緩和ケア / 2. 在宅看護 / 3. 緩和ケア / 4. 訪問看護師 / 5. 終末期
鈴村 沙織
最適な問題解決手段としての協働とは ~リボンムーブメントの子宮頸がん予防啓発活動を通じて~
【概要】
様々な分野での問題解決において、行政だけでは解決が難しいといわれ、新しい公共、行政と市民の協働といったことがもてはやされている。 本稿では、こうした問題意識のもと、筆者が取り組んできた「予防医療分野」での学生非営利団体による活動を事例にして、行政と非営利組織間での協働の位置づけと背景を整理し、協働に関わる課題を考察するとともに、最適な問題解決手段となりうる協働の在り方について探求する。
【キーワード】
1. 協働 / 2. 行政 / 3. 非営利組織 / 4. 子宮頸がん / 5. 予防啓発活動
池田 早華子
孤立高齢者の具体的実態把握に関する研究
【概要】
孤立死や孤独死、無縁死といった言葉に代表されるのが人々の「孤立」に関する問題である。本研究では一人暮らし高齢者に焦点を当てる。我が国における本分野の研究は海外と比べて実例が少ないことに加え、孤立している人々の具体的な生活を明らかにしたものは少ない。そこで本研究では、一般的な首都圏ベッドタウンの一つとして考えられる神奈川県茅ヶ崎市を事例に、孤立高齢者と思われる人々の具体的な実態を明らかにすることを目的とし、彼らに直接的なアプローチを試みた。
【キーワード】
1. 高齢者 / 2. 孤立 / 3. 拒否 / 4. 地域包括支援センター / 5. 茅ヶ崎市
溝江 菜央
「人」が集う在宅緩和ケア ーかかわりが創りだす2つのチカラ-
【概要】
外来患者や近所の高齢者, 育児中の母親など様々な「人」がかかわりながら, 在宅患者の願いを実現する在宅療養支援診療所がある. 本研究では, エスノグラフィーという手法を用い, ? 穂波の郷にどのような「人」が集っているのか, ? 「人」のかかわりがもたらすものは何か, ? 穂波の郷に「人」が集う理由, 以上3点を明らかにするとともに, 穂波の郷モデルの新たな可能性を見いだすことを目的とした. 穂波の郷クリニックにて行った参与観察の結果を5つの物語として詳細に記述し, 一人ひとりの「人」のかかわりの意義を考察した結果, スタッフの知り合いに始まり, 地域のママさんや子ども, 近所の高齢者, 外来患者, 患者家族, 社会的自立を目指す人, 看取り経験者, 大学生, そしてそのまた知り合いなど, 多くの「人」が穂波の郷に集っていた. これらのかかわりは, "患者を癒し, 願いを叶えるチカラ"と"「人」を癒し, いきいきした生活を支えるチカラ"をもたらしており, 穂波の郷に「人」が集う要素としては, 「かかわりのきっかけを創るスタッフの姿勢」, 「かかわりを後押しする交流スペースの存在」, 「考え抜かれたかかわりを通して得られる充足感」の3点が抽出された. 本研究は, 「人」が集う在宅緩和ケアが, 全人的ケアを可能にすると同時に, いきいきと暮らせるまちづくりにも繋がるという医療の枠組みを超えた新しいモデルを示すことができたものと考える.
【キーワード】
1. 在宅療養支援診療所 / 2. 緩和ケア / 3. コミュニティケア / 4. 願いの実現 / 5. まちづくり
高田 みなみ
大学生に対するデートDV予防啓発プログラムに関する研究
【概要】
本研究は女子大学生を対象にデートDV予防啓発プログラムを実施し、デートDVの正しい理解がなされるか否か、またデートDVに関する相談を受けた際に正しい対応が出来るか否か調査することによって、デートDV予防啓発活動の効果を明らかにする。アンケート調査により、デートDVの正しい理解の重要性とデートDV予防啓発プログラムの効果が明らかになった。
【キーワード】
1. 恋愛 / 2. デートDV / 3. 予防啓発活動
伊東 夕季
医療通訳派遣事業の普及と存続を可能とする要因の検証・神奈川県の事例に注目して
【概要】
日本国内の外国人登録者数は増加傾向にあり、私たちは多文化共生社会の時代を迎えつつあるといえる。日本語でのコミュニケーションに不自由を感じている在日外国人にとって、言葉・文化の壁は公的サービスを受ける上で大きな障害となる。健康と命を守る医療の場でも事態は深刻である。日本語が流暢でない外国人患者に適切な医療ケアを提供する一手段として、医師と外国人患者間の円滑なコミュニケーションを支える《医療通訳》が注目されている。本論文の目的は、国内の医療通訳システムを支える医療通訳派遣事業の社会的意義とその普及における要因を明らかにすることである。
【キーワード】
1. 医療通訳 / 2. 外国人医療 / 3. 言葉・文化・制度の壁 / 4. NPO法人 / 5. 地方自治体
木幡 香
体格と性格からみるタッチフットボール選手のポジション適正に関する考察
【概要】
本研究は、タッチフットボール選手のポジション適正について、現役プレイ中の選手を対象に、体格ならびに性格の観点から調査を行い、現状を分析することを目的としている。タッチフットボールは、ポジションごとに個人の役割が非常に明確であり、固定されているため、ポジションの選定というのはチームにとって非常に重要なことである。したがって、この調査によって、ポジションの選定に役立つような分析結果を残すことを目指している。分析の結果、ポジションごとに有意な差が表れたのは「体重」の項目のみであった。今回の調査では、タッチフットボールの現役選手のポジションごとの体格・性格の違いについて現状を把握することはできた。しかし、特に性格について、ポジション選定の際に役立つような明確な違いや、適性を導き出すことはできなかった。
【キーワード】
1. タッチフットボール / 2. ポジション / 3. 体格 / 4. 性格
酒井 亮介
ソーシャルメディア時代の購買行動~財の特徴から活きる環境と機能を持つ場から派生する共有行動~
【概要】
本研究は財の特徴の違いからソーシャルメディア時代の購買行動がどのように行われているかを報告するものである。企業の積極的参入やソーシャルメディアの共有機能の影響から現代の消費者の購買行動が変容しつつある。企業がソーシャルメディアに参入している財の特徴による文献比較調査を行ったところ口コミの影響を受けやすい感覚的財が全14財中12財という結果が出た。これによりソーシャルメディアからの影響を受けやすい財には一定の特徴(感覚的財・企業の介入)があることが明らかとなった。そこで感覚的財の対極に位置する論理的財と企業の非介入の場合を明らかにするべく面接調査を行った。①論理的財②写真を作品とする③コモディティ化の可能性から一眼レフカメラという財を選択し、①画像の容量が無制限②写真機能の充実といった写真が活きる環境と機能を持つFacebookを取り上げた。その結果、①写真集的な役割を果たすのに過不足ない環境と機能を持つFacebookによりその魅力が共有・拡散されている②低価格と流行が影響で財が感覚的財寄りにシフトしていることが明らかとなった。2つの調査により、特に感覚的財においてソーシャルメディアのような各機能が共有・拡散という役割を果たしコミュニケーションの壁を解消している場を前提とし、消費者の共有行動を生み出しやすくなっていることが明らかとなった。本研究は現代の購買行動における消費者の共有行動の把握だけでなく、幅広い学問分野においてソーシャルメディアでの共有行動として応用できるという点で意義がある。
【キーワード】
1. ソーシャルメディア / 2. 購買行動 / 3. 財 / 4. 共有 / 5. ネット・マーケティング