慶應義塾大学 湘南キャンパス 秋山美紀研究室 Miki Akiyama Lab

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2014年度 卒プロ

2014年度、秋山研究会では、7名の4年生が卒業研究プロジェクトを完成させ、卒業することになりました。(うち1名、田中さんは印南研で提出)
いずれも重要な研究テーマを独自の切り口で掘り下げ、しっかりした方法でデータ収集と分析を行い、読み応えのある卒業論文になりました。 全7題のタイトルと論文要約をご紹介します。
なお、学内からはSFC卒プロデータベースで、全文を読むことができます。


■2014年度秋学期■

女子大生の子宮頸がんの認識と検診受診プロセスに関する研究
環境情報学部4年 生井 茜


【概要】
 子宮頸がんは近年、若い世代で罹患率が高いがんだが、検診受診で早期発見・治療が可能である。しかし、本国では検診受診率が低いため罹患率が下がっておらず、若い世代で検診受診率を上げることが喫緊の課題となっている。そこで、若年層での子宮頸がんの認識を明らかにするために文献調査を行った。また、女子大生2022名を対象に子宮頸がんの知識や子宮頸がんを知ったきっかけ、予防行動の有無を明らかにするという目的でアンケート調査を行った。さらに、受診者はどうして検診を受診するのか、未受診者はどうして検診を受診しないのかを明らかにするという目的で女子大生8名にインタビュー調査を行った。  その結果、文献調査から、検診受診率向上のためには母親からの推奨が有効だとされ、検診受診者は未受診者に比べ受診の障害の認知が低いことや、自己効力感が有意に高いことが示された。アンケート調査からも、母親からの推奨は検診受診のきっかけとして有効であると示された。検診受診者へのインタビュー調査では、母親を含めた周りの環境と受診行動の関連性も明らかになったが、受診者たちは、受診に対して主体性を持ち、同時に受診を阻害する要因を排除していた。また、未受診者の阻害因子には、周りの環境、検診への認識が関連しており、正しい子宮頸がんの知識を与えるとともに受診のメリットを伝える必要があると考える。 以上の結果から、女子大生の予防行動プロセスには、「環境」「主体性」「阻害因子の排除」が必要であると本研究では結論付けた。

【キーワード】
子宮頸がん/検診/母親/主体性/阻害因子



病気を持ちながら大人になるということ -小児期発症の疾患を持ちながら大人になった当事者と支援者たちの語りより-
総合政策学部4年 佐藤 優希


【概要】
治療成績の進歩により小児期発症の疾患を持ちながら大人になる人が増えた。そのこと自体は喜ばしい一方、成人を迎えた患者を誰がどこで診るのかなどの制度面、社会経験の不足による未熟さなどの発達面の課題がうまれており、従来の小児完結型の医療では対応できなくなってきている。しかし、それらの問題に対する解決策は未だ提示されていない。
 そこで本研究は病気に対する認知の変化プロセスとそのきっかけ、病気を持ちながら大人になる人への支援を明らかにすることを目的とした。方法は半構造化面接(ライフヒストリー法)を用いた。対象者は小児期発症の疾患を持ちながら大人になった、20歳以上の患者8名である。その結果、患者の病気に対する認知の変化プロセスは以下のようであった。「発症、混乱期」、「変革期」「前進期」の3つの時期を経ていた。各段階で共通する重要事項は、『普通』の生活を送ること、学校生活を送ることであった。
 病気を持ちながら大人になる人への支援(方法は半構造化面接(ライフストーリー)、対象者は患者8名に加え、母親2名、医師2名、看護師2名、特別支援学校教師1名、中学・高校教師1名)としては、治療に主体的に参加させる、信頼して待つ、愛情、安心感を与え、居場所を作るなどの項目がみられた。各々の項目に共通することは患者の挑戦を見守ること、ありのままの患者を受け止めるなどセキュアベースを与えつつ、自立を促すことが重要であるということであった。
 総じて患者が望むこと、周囲が考える発達への好影響を及ぼす関わりは「してあげる」ことではなく、『普通』に近づく、維持すべく「試してみる」ための土壌をつくること、試してみて失敗したときの受け皿になることだとわかった。そのためには医療提供体制や国の助成制度の整備、治療法の研究などの進歩も待たれるが、発達面の問題解決の端緒として、今ある資源で考え方、関わり方を変化させることが重要だと考えられる。

【キーワード】
移行期医療、疾患受容、患者支援

ろう児が通常学級に通うことで得られる経験
総合政策学部4年 加藤 洋将


【概要】
ろう児が通常学級に通うことは困難が多いという考えがある。しかし、実際には通常学級に通い、充実した学校生活を送ったろう者もたくさんいる。それではなぜ、ろう者が通常学級に所属することは難しいと思われているのだろうか。この疑問を解決すべく、本研究では小学校または中学校で通常学級に通った経験がある20代のろう者4名にインタビューを行い、彼らが通常学級でどういった生活を送ってきたのか、通常学級に通った経験がろう者にどういった影響を及ぼしているのかを調査した。また、ろう学校のみに所属していたろう者3名にもインタビューを行い、通常学級に通うこととろう学校に通うことの違いも調査した。調査結果から、通常学級に通う利点として「聴社会へ参加できること」、「聴者とのコミュニケーションへの恐怖心が薄れること」、「周りからのサポートが得られること」、「社会に出たあと、当時の経験を役立てられること」が挙げられた。また、ろう学校へ通っていたろう者へのインタビューから、「ろう者は通常学級に通おうがろう学校に通おうがコミュニケーションで必ず苦労している」ことが明らかになり、ろう者にとってはろう学校に通おうが通常学級に通おうが苦労も楽しみもあることが示唆された。以上の結果から、通常学級に通うことで、「聴者へのコミュニケーション方法」を身につけるだけでなく、ろう者の行動次第で学校生活を充実したものにできることが明らかになり、「ろう者は通常学級に通うことに価値がある」と結論づけた。

【キーワード】
聴覚障害/コミュニケーション/インテグレート/ろう教育/手話/ろう学校/通常学級



食育をめぐる現状を背景とした小学校中学年を対象とする食育ワークショップの開発と実践
環境情報学部4年 森 園子


【概要】
豊かな人間関係を育み、生きる力を身につけていくためには「食」が重要である。また子どもの頃に身に付いた食習慣を大人になってから改めることは困難であることから、児童の食育は健全な食習慣を培うために不可欠であると考える。  平成17年の食育基本法制定以来、自治体や教育機関を中心に試行錯誤を重ね様々な食育プログラムが行われているが、数少ない実習や講義で結局深く意味を理解し定着するまでに至らず、ただ「楽しかった」「おいしかった」等の感想を持つ段階で終わってしまうことが多く、食育の指導に対しての定着度や効果を図る方法も的確なものがない状態である。 そこで児童が楽しみながら食の知識や自らの食生活について考えるきっかけを得ることを目的に、食育ワークショップを企画・実践・評価を通して考察を行う。 食育ワークショップは、小学校3・4年生が、野菜の「旬」について学び、バランス良い食生活を主体的に実行することをゴールに、大学生が中心となり、地域の農家、管理栄養士、料理家の協力を得て企画した。実施地域である山形県鶴岡地区に伝わる「在来野菜」もテーマに取り入れ、児童が地元への愛着や農家へ感謝するような内容も盛り込んだ。公募で市内各地から集まった14名の児童を対象に、旬野菜の栄養素や地元の農産物に関する講義やクイズ、それらを使った調理実習等、計7時間の体験型ワークショップを実施した。子どもを飽きさせずに内容を伝える工夫として体を動かすワークや、学んだ内容を持ち帰り今後の生活に役立てるための成果物作成も行った。プログラム実施後に、児童の満足度や学びの達成感を把握するためにアンケートを実施した。 参加児童のアンケート(全14名が回答)では、全員が「楽しかった」「また参加したい」と回答し、「嫌いな野菜も調理方法を変えたら克服できた」との記載もあった。児童の反応から、楽しみながら食について学ぶという目的は達成できたと考えるが、その後の食生活の改善については検証できていない。また、児童が楽しみながら学ぶためには、学びと共に体験をさせること・五感を使った内容にすること・地域や年齢に合わせた内容にすることが重要な要素であると分かった。 これらの結果と文献調査から分析した食育の現状について、継続性や評価方法、自己効力感といった面で考察を行ない、子ども達が健康な食生活のための選択と行動をする力を身に付けるために必要な食育ワークショップの要素について述べる。

【キーワード】
食育 / 健康 / 教育 / 食生活


日本の地域医療政策における在宅医療連携拠点事業に関する検討
総合政策学部4年 豊見里 音花

【概要】
現在、日本人の60%以上は自らの看取りの場として自宅での療養を希望しているといわれている。また、高齢化により今後そのニーズは拡大していくと予想される。しかし在宅での看取りを可能にする医療、すなわち在宅医療を提供する場はまだまだ少なく、在宅医療の提供体制の整備が急務とされている。そこで、本研究は厚生労働省が47都道府県105か所の拠点で行った平成24年度在宅医療連携拠点事業について焦点を当てて、4つの事業所のケースを整理・比較し、行政・医師会・医療機関の各プレイヤーの長所と限界を明らかにすることで、今後の在宅医療連携拠点のあり方について検討することを目的とする。結果、厚生労働省の総括報告書では行政が在宅医療連携拠点事業の中核となって拠点事業を行っていくことが望ましいとされたが、医師会や医療機関が主体となって拠点事業を行うことにも利点があった。また行政が事業を行うことによる限界も明らかになった。これにより医師会や病院・診療所などの医療機関が中心となって在宅医療連携拠点事業を行うことも可能であることが示唆された。

【キーワード】
在宅医療/地域医療/在宅医療連携拠点事業



継続的に運動を実施する中年者が運動を開始し維持するまで ~ランニングを事例に~
環境情報学部4年 三島健治


【概要】
 超高齢化社会をむかえた日本では、予防医療への関心が高まっている。その中でも、中年期における運動は効果的な生活習慣病等の予防につながるだけでなく、高齢期の自立的な生活を促進する要素として重要視されている。  さまざまな運動種目の中でも金銭的負担や環境的な要因が少なくはじめられるランニングは、取り組む人口が増えている。そこで本研究では、ランニングを行う中年者を対象にインタビュー調査を実施し、なぜランニングを開始し維持することができているのかその過程を明らかにすることを目的とした。結果として明らかとなったのは、ランニングの運動の継続について「他者との関わり」が重要であることが明らかになった。また、ソーシャルネットワーキングサービスがランニングの特性を活かし、他者との関わりの価値を築くことが示唆された。

【キーワード】
Keywords:ランニング、中年者、運動継続、ソーシャルネットワーキングサービス

潜在看護師の復職支援~政策面とキャリア面からの提言~
総合政策学部4年 田中綾華

【概要】
近年、日本では医師不足とともに、看護師不足が叫ばれている。厚生労働省は、平成23年の「医療提供体制の改革に関する意見」の中で、医師の不足・偏在問題とともに、看護職員(保健師、助産師、看護師及び准看護師)の不足・偏在問題も深刻であるとしている。看護師が不足した状態で勤務を続けることは、労働の過酷さに拍車をかけ、看護師の離職を加速させてしまう。また、少ない人数での看護は患者への安全性も下がるという問題がある。 そのため、本研究では看護師不足の解消を実現に繋げるべく、看護師を「現職看護師」、「新卒看護師」、「潜在看護師」の3つに分け、それぞれにおける現状を知った上で、離職防止策や復職策の考察を行った。 第2章では、現職の看護師に注目した「現職看護師の問題と対策」、第3章では、卒業してすぐの「新卒看護師の問題と対策」、第4章では、独自に行った調査である「キャリアプランアンケート調査」、第5章では「潜在看護師の問題と対策」、第6章では、独自に行った調査である「看護師のキャリアインタビュー」、第7章では、まとめを行う「総合的な考察」について述べた。


【キーワード】
潜在看護師/キャリア/復職支援